FC2ブログ
クリックで拡大表示
石川達三

蒼茫とは「遠くまで青々と広がっていること」。
それは、当時、土地さえも棄てざるを得なかった貧しい農民たちのブラジルに対する思いだった。
「海外雄飛の先駆者」「無限の沃土の開拓者」といった浮ついた美辞麗句で進められた移民政策。
現実はかならずしも夢として語られるようなものではなく、家族を棄て、土地を棄て、国を棄てざるを得ないような状況下での唯一の選択肢だった。
この本に書かれているのはブラジルでの惨状ではなく、移民に向けて神戸の国立移民収容所で出港手続きをする人たちやブラジルに向かう船の中での人たちの姿。
ここには国策に対する批判はなく、移民を決意した農民たちの悲しみだけがあふれる。
まさに希望と不安が交錯しながら絶望への道をたどり始めるとき。
900人の移民を乗せた45日の船旅で語られることが当時の日本の姿を浮き彫りにする。
あまりにむなしく悲しい日本の現実。
この本が書かれたのはまさに移民が行われているときで、移民政策否定と言うより移民者の正義を称えるという感じさえ受ける。
それがなおさらのこと悲しみを募らせる。
ブラジルの地に着いて、二度と戻れないかもしれない母国の日章旗を目にしたとき、彼らの気持ちはいかほどのものだったのだろう。

昭和26年発行(文庫)の本書は石川達三氏のデビュー作にして第一回芥川賞作。
あとがきは偶然にも「いのちとかたち」の著者山本健吉氏によるものだった。
スポンサーサイト



2004.10.09 | 本  | トラックバック(0) | コメント(0) |












管理者にだけ表示

トラックバックURL↓
http://slowfish.blog9.fc2.com/tb.php/375-9c308e34