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吉村 萬壱

吉村萬壱の前作はエログロに辟易とした記憶が蘇る。
ところが今回はそのエログロに必然性さえも感じさせる異常なほどに濃密な世界が繰り広げられる。
400ページに書き込まれた言葉にすべてに意味を感じさせるほどの密度で、細かい描写に至るまでの創造性には驚かされる。
ちょっとした表現にさえ眼を奪われ、文字を追うのが止まってしまうこともしばしば。
どこかで力が抜けるのではと思いながらも、いっこうに描写の密度が下がるということはない。
この筆力は他者の追随を許さないもの。
読者に息をもつかせぬ疾走感がある。
節ごとに設けられる半ページほどの余白がなければ、途中で投げ出したかもしれないほどの圧迫を感じました。

物語は姿の見えないテロリンと呼ばれる敵が攻撃する興廃した近未来の都市に始まります。
自分を除くすべての人に対して、テロリンの可能性を疑うような疑惑に満ちた世界。
そこに暮らす人々は秩序を失い、レイプと麻薬と暴力に満たされた日常的な殺戮を繰り返し、唯一の目的はテロリンと戦う志願兵となることだけ。
意を決して志願兵となったものが向った大陸には、得たいの知れない怪物が待ち受けていた。

前半の興廃した都市と主要な登場人物の描写は遅々として進まず、後半の神充との戦いは眼もくらむような速さでエンディングに向う。
前半のエログロ、後半の戦闘、ともに異常な充実感がある。
いずれも人間の本性に関わるところがあるからだろう。
人間性そのものと向き合うようなSFだ。
設定は違うけど「ソラリス」を思い出させるような小説と言えばイメージできるかもしれない。
見えないテロリンも神充の生態も、読み終えてみるとすばらしく魅力的。
最高のヒールと言ってもいいのでは。
このヒールなくしてこの戦いはないですね。
また、肉体労働者の椹木武、彼の愛人で売春宿で働く小柳寛子、小柳寛子を追う素人画家の井筒俊夫、非道な医師の斉藤良助、残虐な麻薬売人の土門仁のキャラクター設定もすごい。
この5人が人間の性を象徴しているようにさえ思える。
フィクションであるはずのこれらの設定が、現実社会のデフォルメのように感じられてきます。

先日読んだ『ベルカ...』に暴力性という点で似たようなところがあるのですが、着想を除く小説としての完成度では『ベルカ...』をはるかにしのぐものと思います。
『ベルカ...』が薄っぺらに思えてくるほど。
ただ、小説のタイプが違うので、その賛否は大きく分かれるかもしれません。
いずれにしても、暴力を扱った二つの魅力的な小説に、時を同じくして出会えたことがうれしく思えます。
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2005.06.26 | 本  | トラックバック(1) | コメント(1) |

すごかったです!圧倒的な筆力に引きずらました。
>エログロに必然性さえも
確かにそうかもしれません。気持ち悪いと思いつつも、読んでしまったのは、慣れるというよりも、そこから極限に引きずり込まれたからかもしれません。
そして、そこに広がっていたのが、人間性と向き合うような世界だったというのにも、圧倒されました。

2006.04.11 13:21 URL | june #- [ 編集 ]












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「バースト・ゾーン -爆裂地区」吉村萬壱
バースト・ゾーン―爆裂地区暴力的でエログロナンセンスが炸裂しています。エログロと書きましたが、エロ部分もいやらしいんではなくて、ひたすらグロテスクです。正直言って気持ち悪くて、読むのをやめた方がいいのかもしれないと思ったのですが、結局先が知りたくて本....

2006.04.11 12:55 | 本のある生活